Manga_tokano_nikki

主に漫画の新刊や新作の感想+評価を書いています。紙で買う事が好き。

パンプキン・シザーズ 24巻 感想

4年ぶりに新刊…だと…!?!?!?

踏み愛、アンタイトルブルー、ルリドラゴンと最近年単位ぶりの単行本がラッシュだったが、これは一際久しぶりの単行本ですね

本当に、本当に驚いた

他作品と違って岩永先生については休載中の4年間に公式から情報が一切なかったからですからね

本人のSNSも無いしでマジの生死不明だった

これはこのままフェードアウトかなと思って諦めていましたが…まさかの復活!!

ずっと単行本持っていて良かったです、本当に…

 

やっぱり後期は特に死だの正義だの人類の究極のテーマに対して真剣に答えを出していましたからね

代償としてやっぱり精神的に凄く疲労したのが休載理由なんじゃないかなと思っていました

四六時中死の事を考えていたら病んで逃げだしても何も驚かないですし、仕方ないとも思う

そんな中でも話の完結を諦めずに再び筆をとってくれたことに感謝しかないです

 

そして流石に展開を思い出せなくて、単行本を一から読み直したが…

改めて凄く面白い作品だなと感じた

 

初めて読んだときは中学生だったから、イカれた人間VS戦車とのバトル&大人なロマンスで凄い刺激的だったのをよく覚えている

特にオドオドしているオーランドがランタンを付けると最強に成るのがとても格好よく見えていたものです

 

しかし大人になって読むと、何とも難しいテーマと向き合っていて味わい深い面白さがあるなと思った

戦災復興という難しいテーマを軸に、心の傷との向き合い方や恋だの愛だの、死とそれを回避することとはっていう普遍的人類テーマを真正面から書いていて色々考えさせられる

特に合同会議での正義について語るアリスは凄まじく素晴らしい演説で心揺さぶられた

 

大衆娯楽としても、哲学としても高いクオリティーを誇る素敵な作品だ本当に

迷わず★5の名作です

もし読んだことない人いたら是非読んでみてほしいです

 

 

あらすじ

ケルビムは合同会議でアンチアレスに囚われていた各国の代表に対して、ペリオン領について密談を持ち掛ける…

そして記者を通じて情報速度の向上による未来について思いを馳せる…

 

 

以下ネタバレあり感想

 

 

 

~~~~~

・各国との取引について

まずケルビムは各国に”パテント料”で脅しをかける

そして”特許開放の取り下げ”、”軍備上限の引き上げ”、そして”ペリオン領の調査の遅延を求めるが…

話の全部が軍備上限違反の回避に収束する流れが美くて感動した

軍備上限を超える数の戦車をどうにかするために各国に同じ罪を着せる、そのためにパテント料で軍備上限を侵している事を認めさせる

順を追って本命を明かしてくれるから”どうしてこれを要求するのか”が非常にすんなり受け入れられる

説明が、上手すぎます

 

各国が軍備上限に引っかかるという発言で怯むのはご都合にも見えるが、帝国を始めとして停戦直後だから再戦に向けて皆が軍備を強化したいと考えている状況なので納得できる

まあ特許料について素直に払う流れなのもご都合だなとは思いますが、停戦で体裁上は各国と交友を目指すからこそ払うという形を避けては通れないんでしょうね

そしてそもそも通報されるのか?については情報伝達速度向上により揉み消されなくなりますよ、とね

 

いやあよくこんなに考えるものですね…

ケルビムが計算高いのは何より、各国の大使も馬鹿じゃないんだよな

ちゃんと痛い所を指摘するし、話の意図を汲み取って駆け引きをしてくる

それに対してちゃんと回答があって綺麗に話しが進むのが凄い

幾ら計算されているシナリオとはいえ、展開される話に凄く説得力があって唸る

正義についての理論展開に続いて政治バトルについても本当に完成度高くて感銘を受けます

 

そして政治バトルをただの各国のルールの戦いにするのではなく、個人の感情を挟さみ言動に分岐を持たせることでただの主張オナニーではなくキャラものとしても成立させる…

ここが一番凄いと思いますね

ただ相手をルールで殴るのではなく、どうして殴るのか、その結果どうありたいのかとワンクッションあるので「これはケルビムの考えだ」ととらえることが出来る

だからこそ読者は他キャラとの掛け合いを楽しむことが出来る

 

そして答えについては記者に委ねるという形で何が良かったかは明示しない

ここまで語ったのにこれが正解!って最後まで言わないので読者側もどうあるべきかを考える余地がある

隅まで楽しめるつくりなので凄いと思いました

 

・情報速度の向上がもたらす功罪について

電信の無い世界からある世界へのパラダイムシフト…情報が速くなるとどう変化するのか、水に例えて分かりやすく考察されていて、フームってなっていた

こればっかりは私も生まれた時から電話や家庭用PCがあるパラダイムシフト後の世界に生きていますから

情報伝達にタイムラグが無いという事はある種当たり前で、これが起こした価値観の変化についてを考えることなどなかったので当たり前のようで新鮮な話だなと思った

 

特に興味深いのは「その世界で成り立つ政治には、必ず適した情報速度があったはずだ」っていう所ですね

確かに現代は個人の情報速度が向上した結果、個人が誰でも発信出来て自分の本音を素直に伝えることのできる世界になった

結果として政治とは実績以上に人間性が重要になっていますね

例えばトランプの政治実績よりも発言内容で人気が割れているわけですからね

情報の質良速度が向上すれば個人情報の解像度が上がる、すると人間を好きか嫌いかという人間の直観的な判断も判断における比率が増えてくる、なので人間性も重要になる…

 

情報がもっと絞られていたなら、我々庶民は景気で政治家の良しあしを考えていたでしょうね

例えば情報統制をする習近平はきっと中国では人気者なのでしょう…景気を良くした第一人者ですから…

岸田総理も情報が少なかったら”増税クソ眼鏡”とか言われなかった未来があったのかもしれない

そう考えると情報の価値って凄いし趣深いですね

 

そして後半の情報速度の向上により正しい語り手だけでなく、「正しい受け取り手が必要」とね

これは現代がまさにSNSで自らの正義という名の暴力を自由に振りかざす無法地帯だからこそのメッセージなんでしょうね

「貴方は受け取った情報をどう活用していますか?暴力に使用してませんか?」ってね

 

まあ人間が扱いきれない情報量が行動を変えてしまっているのが諸々の原因だとは思う

人間は同調行動したがる生物ですからね

インターネットで”これが川の流れだ”と錯覚して泳ぐには十分な量の湧水があるせいで、流れに乗って自分の行く先を委ねてしまう

そのせいで自分の行動を制御できなくなる

そうして誰かを過剰に攻撃したり、過剰に持ち上げたり…

結局は個々人の意図よりも大きな力が積み重なり強大な津波となるのが昨今のインタネットいじめとかの正体だとは思う

 

こればっかりは人間の倫理観の成長を待つしかない

しかしこんなにも情報速度が上がっても悪意の伝達速度の方が速いのですから、人間は性悪説が正しいのではとか思ってしまいます

結局個人では悪意に染まってしまう、社会という檻に入ることで初めて自分を律することが出来るのだと痛感しますね

結局人の目が自分を人間たらしめるという事なのでしょう

放っておいたら野生に従い、人を殴り優位に立ちたいという願望に支配されるのかもしれませんね

 

~~~~~

本当に久しぶりに読み返しましたがとても素晴らしい作品だと思ったので★5です

 

終わり

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